東京高等裁判所 昭和55年(ラ)256号 決定 1981年5月18日
抗告人
高松綾子
右訴訟代理人
山本博
同
秋山泰雄
抗告人
高松茂
右代理人
小澤克介
同
前田裕司
相手方
高松よ
相手方
高松保
右両名代理人
大野正男
同
大野明子
相手方
宇留賀登茂枝
相手方
田崎昌枝
主文
本件抗告をいずれも棄却する。
理由
第一抗告の趣旨及び理由
抗告人高松綾子は「原審判を取消し、更に相当な裁判を求める。」旨、抗告人高松茂は「原審判を取消す。本件を東京家庭裁判所に差戻す。」との決定を求める旨、それぞれ申立て、その理由をいずれも別紙のとおり主張した。
第二当裁判所の判断
一抗告人高松綾子の抗告理由について
1 抗告人は、原審判別紙第2目録1記載の土地及び第3目録1ないし3記載の各土地は、いずれも被相続人の遺産に属する旨主張するのであるが、当裁判所も右各土地は、被相続人の遺産には含まれないものと認定するのであつて、その理由は、原審判がその理由中において説示するところと同じである(原審判五枚目表六行目から同六枚目裏六行目まで)から、これを引用する。なお、抗告人は、原審の昭和五三年五月一六日の審判調書には、相手方高松よ及び同高松保の代理人が、右各土地が被相続人の遺産であることを争わないと述べた旨の記載がある旨主張するけれども、右調書にそのような記載がないことは本件記録上明らかであるし、本件記録を精査して見ても、右の相手方らが、前記各土地が被相続人の遺産に属することを自認した形跡は見当らない。従つて、この右張は理由がない。
2 抗告人は、原審判別紙第1目録2及び3記載の各建物につき本件相続後に生じた家賃収入は、被相続人の遺産として本件遺産分割の対象に含ましめるべきである旨主張するのであるが、遺産は、民法上特別の規定がない限り相続開始時に被相続人に帰属していた財産のみに限られるのは当然であり、遺産の果実である家賃収入が遺産に属しないことは、いうをまたないところであるから、これを遺産とは別個の財産として、共同相続人らの遺産に対する共有持分の割合に従い右の相続人らに帰属せしむべきものとし、共同相続人間の合意がない限り、右の家賃収入を遺産とあわせて分割することはできない趣旨を判示した原審判は相当である。なお、原審判が右の家賃収入は、相手方高松よに取得させることにつき他の相続人が暗黙裡の承認をした旨判示していることは抗告人主張のとおりであるが、右判示が不当であるとしたところで、それが原審判に影響を及ぼすものではないことは明らかであるし、抗告人が右のように承認を与えたことがないとすれば、抗告人は、民事訴訟において、その権利を主張すればこと足りるのであるから、抗告人には、右の判示を理由に原審判の取消を求める利益もなければ、その必要もない。従つて、この主張も理由がない。
3 抗告人は、原審判別紙第3目録1ないし3記載の各土地は、被相続人の遺産であり、そうでないとしても右土地自体又はその代金調達のために売却されたダイヤの指輪は、被相続人の生前に贈与を受けた特別受益として、その価額を遺産に加算すべき旨主張するのであるが、右各土地が相手方高松よ所有のダイヤ指輪代金により購入された相手方の特有財産であることは一件記録によつて明らかであるし、右のダイヤが戦前に被相続人から相手方高松よに贈与されたものであることは、同相手方が原審における審問の際自ら供述するところであるが、それが抗告人の主張するように生計の資本として同相手方に贈与されたことを直接認めるに足りる資料はないし、それ自体が夫から妻に対する装飾品の贈与であり、それがダイヤの指輪であつたにせよ被相続人の当時の財産状態に照らし、とくに分不相応な贈物であつたと認めるに足る資料も存在しないから、右贈与自体から、生計の資本としての贈与であると推定することも相当ではない。従つて、この主張も理由がない。
二抗告人高松茂の抗告理由について
1 抗告人は、原審の審判手続においては弁護士である代理人の介助が受けられず、その主張、立証活動を著しく制約された旨主張するのであるが、家事審判手続においては本人自身出頭するのが原則であつて、代理人の出頭は、やむを得ない事由ある場合に限り許されるにすぎないのである(家事審判規則五条)から、弁護士の介助が得られなかつたとするこの主張は、すでに失当であるのみならず、一件記録によれば、抗告人は、昭和五一年一〇月一二日から昭和五四年一二月二一日までの間二〇回にわたつて開かれた審問期日には、そのうちの三回(昭和五一年一一月三〇日、昭和五三年一二月二六日及び昭和五四年二月二三日)をのぞき、すべて自ら出頭して、他の相続人の審問及び証人尋問に立会し、また自らも審問に応じて供述し、また昭和五二年二月一四日の審問期日において、本件抗告理由第二と同旨の主張をし、更に右抗告理由第三、一と同旨の主張を記載した同年三月一四日付上申書を提出していることが認められるのであつて、抗告人の主張立証活動が妨げられたとは考えられないし、他に抗告人の主張事実を認めるに足る証拠はない。従つて、この主張は、理由がない。
2 抗告人は、原審判別紙第2目録2及び4記載の各土地は、抗告人が被相続人から生計の資本として贈与を受けたものではないと主張し、一件記録によれば、原審の昭和五四年九月七日の審問期日における抗告人の供述中には、一部右主張に副う部分が存在するのであるが、右供述中の他の部分及び原審の昭和五二年一一月二五日の審問期日における抗告人の供述と対比して見ると前記の抗告人の主張に副う供述は、そのまま採用することができないし、他に抗告人の右主張事実を認めるに足る資料はない。
3 抗告人は、被相続人が原審判別紙第2目録1記載の土地を取得するについては、抗告人にその四分の三に見合う寄与分があり、同第1目録1ないし3記載の各土地及び同第2目録3記載の土地を取得するについては、抗告人にその二分の一に見合う寄与分がある旨主張し、一件記録によれば、抗告人は、旧制中学校を二年で中退して質屋に奉公し、その後独立して質屋を開業し、戦後は、被相続人が水道の技術者であつた関係から、同人によつて設立された水道工事の請負を目的とする有限会社高松商事の営業に従事するにいたつたことが認められるのであつて、他の相続人らと異り被相続人の遺産の形成に当つては、なにがしか寄与するところがあつたことは推認するにかたくないところであるが、その寄与の割合が抗告人の主張する程度に達したと認めるに足る資料はないし、本件の遺産分割において右の寄与について更に特別の評価を加えなければならないと認めるに足る資料もない。従つて、この主張も採用の限りではない。
三以上のとおりであつて、抗告人らの主張は、いずれも理由がないし、更に一件記録を精査して見ても、そのほかに原審判を違法又は不当として取消すべき事由を見出すことはできない。よつて本件抗告をいずれも失当として棄却することとし、主文のとおり決定する。
(廣木重喜 寺澤光子 原島克己)